ⓔコラム18-18-1 頸椎症と筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の鑑別診断

 頸椎症で上肢筋萎縮を主徴とする場合 (頸椎症性筋萎縮) には,ALSとの鑑別診断が問題になる.頸椎症は中高年以上では高頻度の疾患なので,両疾患はしばしば合併している (図1)1).ALSを合併した頸椎症の外科的治療をすると経過が悪い2)ので,頸椎症患者にALSの合併を疑う初期徴候を早期に見いださねばならない.そのためには常日頃から頸椎症の症候と画像を対比する習慣をもち,頸椎症のみで説明しにくい症候の存在に気づき,その場合は電気生理学的検査を施行して検討することが必要である3,4)

図1 頸椎症とALSの鑑別.

 頸椎症では出現せず,ALSに特異的な症候

 軽度の球麻痺,舌萎縮,頸部屈曲力低下,傍脊柱筋の萎縮を見いだすことが重要である.上肢から発症したALSではこれらの症候は初期には軽微な場合が多いが,その存在に気づけばALSの可能性を考慮することができる.

 ALSの存在を疑うきっかけになる症候

ⅰ) 広範な筋線維束収縮: 線維束性収縮は筋萎縮がはじまり急速に進行中の「活動期」で,まだ筋の容積が比較的保たれている時期に顕著に認められ,筋萎縮が高度に進行すると認められなくなる. ALSでは観察される筋は遠位から近位まで広範に及び,大胸筋にも観察されやすい.皮下脂肪の厚い肥満者や女性では観察しづらいため,針筋電図での確認が必要である.

ⅱ) 短期間での急激な体重減少: ALS患者ではしばしば短期間での急激な体重減少がみられる.嚥下障害などによる経口摂取量の減少がないにもかかわらず,半年で5~10 kgの体重減少はまれではない.この体重減少は筋萎縮による筋量の減少だけでなく,代謝の亢進が原因と考えられている.甲状腺機能亢進症,悪性腫瘍,コントロール不良の糖尿病などほかの原因がなければ,数カ月での5 kg程度の急激な体重減少はALSを疑う症候である.

ⅲ) 上肢筋萎縮の分布のパターン: 系統疾患であるALSでは上肢の筋萎縮はびまん性であるのに対して,局所病変である頸椎症では筋萎縮は髄節性分布をとる.ALSにおいても筋萎縮の分布が遠位部優位や近位部優位の場合もあるが,ALSにおいては障害筋と非障害筋はなだらかに移行するのに対して,頸椎症においては障害筋と非障害筋との間には明らかな段差がある.多椎間が障害された頸椎症性脊髄症の場合には,ALS類似のびまん性の筋萎縮にみえることもあるが,詳細に観察すると各髄節間で障害の程度に段差を見いだすことができる.

 C5およびC6髄節の頸椎症性筋萎縮では,棘上筋,棘下筋,三角筋,上腕二頭筋,腕橈骨筋にみられ,回外筋の筋力低下が認められる.この場合は副神経支配の僧帽筋やC7中心の髄節支配である上腕三頭筋との段差に注目する必要がある.

 C8髄節の頸椎症性筋萎縮では,第1背側骨間筋の萎縮が最も観察しやすく,母指内転筋,小指外転筋,総指伸筋の筋力低下が起こりやすいのに対して,短母指外転筋は保持されることが重要である.これは,短母指外転筋の主髄節が頸椎症では障害されることが少ないT1髄節であるためと考えられる5).ALSでは第1背側骨間筋と短母指外転筋の両者が障害されやすいため6),これは両疾患の重要な鑑別点である.

 頸椎症とALSの経過の差異

 ALSは原則的に常に進行性の経過をとり,一側上肢の筋萎縮は高度で,びまん性分布となり,対側上肢や下肢に及び,また球麻痺による構音・嚥下障害をきたす.一方,頸椎症では間欠的に悪化がみられることがあるが,多くの期間は固定性で,ときに改善性の経過もみられる7).頸椎症とALSの鑑別診断に迷った場合には,数カ月程度の経過観察をするのがよい.ALSの特殊病型の1つに両上肢の近位筋優位の筋萎縮を主徴とするbrachial amyotrophic diplegia8)またはflail arm syndrome9)とよばれるものがある.この病型では通常のALSより進行がより緩徐なため注意が必要である.

〔安藤哲朗〕

■文献

  1. Yamada M, Furukawa Y, et al: Amyotrophic lateral sclerosis: frequent complications by cervical spondylosis. J Orthop Sci, 2003; 8: 878–881.

  2. Sostarko M, Vranjes D, et al: Sever progression of ALS/MND after intervertebral discectomy. J Neurol Sci, 1998; 160: S42–S46.

  3. 亀山 隆,安藤哲朗:ALSと脊椎脊髄疾患の鑑別,症候学から.脊椎脊髄,2010; 23: 1060–1067.

  4. 園生雅弘:ALSと脊椎脊髄疾患の鑑別,針筋電図から.脊椎脊髄,2010; 23: 1075–1082.

  5. Levin KH: Neurologic manifestations of compressive radiculopathy of the first thoracic root. Neurology, 1999; 53: 1149–1151.

  6. Kuwabara S, Sonoo M, et al: Dissociated small hand muscle atrophy in amyotrophic lateral sclerosis: frequency, extent, and specificity. Muscle Nerve, 2008; 37: 426–430.

  7. 安藤哲朗:頸椎症性脊髄症の自然経過からみた手術適応.脊椎脊髄,1999; 12: 676–680.

  8. Katz JS, Wolfe GI, et al: Brachial amyotrophic diplegia: a slowly progressive motor neuron disorder. Neurology, 1999; 53: 1071–1076.

9) Hu MT, Ellis CM, et al: Flail arm syndrome: a distinctive variant of amyotrophic lateral sclerosis. J Neurol Neurosurg Psychiatry, 1998; 65: 950–951.